2014年6月3日火曜日

刑事裁判手続における弁護人の役割

警察につかまったら弁護士を呼ぶことができる,というのは,捕まったときにも警察から教えてもらえるのですが,では,その弁護士(弁護人)は被疑者・被告人のためにどのようなことをすることになるのでしょうか。
自分のやっていない事件について,弁護人は,無実の罪であることを証明するために,警察と同じように捜査を行うのでしょうか。




(1)捜査 (検察側立証の弾劾)

もちろん,被疑者・被告人が無実の罪であることを主張している場合に,弁護人が無罪の証拠を集めることは,重要な役割のひとつであることは否定できません。

しかし,弁護人には,捜査機関のような捜査を行うだけの権限は与えられていません。
もちろん,裁判所から令状をもらって,強制的な捜査を行うことなどできません。

そのため,弁護人の行える捜査は限定的であり,警察・検察による捜査にははるかに及びません。
刑事手続においては,証拠は圧倒的に捜査期間側に偏在しているのです。

しかし,弁護人の捜査が限定的であるからといって,無意味という訳ではありません。

刑事裁判においては,検察官が被告人の有罪を立証する責任があるからです。
これはどういうことかといえば,「疑わしきは被告人の利益に」という法格言や,無罪推定原則という言葉に表れているとおり,検察官が,被告人が犯人であることは間違いないだろう,と確信できるところまで立証できなければ,裁判官は被告人を有罪とすることができない,ということです。

そのため,弁護人としては,裁判官に疑わしいと思わせるだけの証拠を集めることが出来れば良いのであって,これは捜査機関に比べて圧倒的に劣った捜査能力を持ってしても,一定の効果は期待できるでしょう。

また,検察官が有罪を示す証拠として証拠調べ請求を行う証拠に対しても,弾劾の余地がないか検討することになります。
弁護人としての捜査の結果得られた証拠・証人や,検察側証人に対する反対尋問という形で,検察側立証を崩していくのです。

このようにして,弁護人は,無実の被告人が有罪の判断を受けることがないように,精一杯努力します。



(2)適正手続の監視

弁護人に期待される役割において,あるいみ捜査よりも重視されることは,適正手続の保障がされているかどうかを,チェックするということです。

適正手続の保障は,日本国憲法第31条以下に定められた大原則です。

第31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

第32条
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

第33条
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第34条
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

第35条
1 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2  捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

第36条
公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

第37条
1 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2  刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3  刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

第38条
1 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2  強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3  何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

第39条
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

第40条
何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

以上の適正手続の保障の原則は,刑事訴訟法において具体的な規定として反映されており,国家による刑罰の適用という,いわば最大の人権侵害が,恣意的に行われないように,整備されています。

しかし,警察官によって自白の強要等が行われることはありますし,また,必要な条件が整って初めて許されるはずの勾留が,簡単に認められてしまうこともあります。
このような適正手続違反は,それ自体が被疑者・被告人に対する人権侵害であると同時に,誤判・冤罪の原因にもなります。

このような適正手続違反が起こらないように注意すること,また起こってしまったときに,それに対抗する手段をとること,これが弁護人の最重要の役割といえます。
このため,弁護人は,時には検察官に,時には裁判官に対し,働きかけることになります。

なお,このような適正手続違反は,真犯人であることに争いがない被疑者・被告人の場合にも起こりえます。
すなわち,逮捕・勾留は,必要があって初めて認められる手続であるにも関わらず,容易に認められてしまう傾向があり,また被疑者・被告人自身も,それが当たり前であると思ってしまう場合も多くあります。

このような場合に,被疑者・被告人の早期の身柄解放に向けた活動は,弁護人としての大きな役割のひとつです。


(3) 情状弁護

刑事事件の大半を占める自白事件において,弁護人の重要な役割となるのは情状弁護となります。
もちろん,その自白が虚偽のものでないかは慎重に見極める必要がありますが。

被害者のある事件においては,被害弁償や示談交渉等を,被疑者・被告人本人に代わって行います。
刑事事件の被害者ともなると,被疑者・被告人本人を相手とする示談交渉には応じない,という方も少なくありません。
そのような場合でも,間に弁護人が入っていれば,交渉に応じてもらえることはあります。
このような示談交渉においては,弁護人は,被疑者・被告人の代理人弁護士として行動することになります。
刑事弁護といっても,民事の交渉が中には含まれるのです。

また,示談交渉以外にも,いろいろと行うべき役割はあります。

被疑者・被告人の早期の身柄解放は,重要な弁護人の役割ですが,準備もなしに身柄解放が達成できたとしても,被疑者・被告人の行き場がなくなるだけです。
そもそも,準備もなしに身柄解放が認められることはありません。
社会に復帰した際に備えた環境の調整も,重要です。
これらは,被疑者・被告人の家族とのやり取りや,場合によっては勤務先とのやり取りなども含んだ,バランス感覚の必要となる活動になります。

刑事裁判手続における情状立証のための証拠・証人集めも弁護人の役割となりまあす。



以上が,大まかな弁護人の役割となります。

これらは,身柄拘束を受けている被疑者・被告人一人では不可能なことばかりです。
また,身柄拘束を受けていなくても,一人では不可能か困難ということが多いのではないでしょうか。

特に,身柄解放に向けた活動はスピード勝負,という側面もあります。
身柄拘束が続けば,会社をクビになってしまうかも知れません。
学校を退学になってしまうかも知れません。
受け入れる社会が残っていなければ,いくら無罪を勝ち取っても,取り返しはつきません。

逮捕・勾留されてしまったら,すぐに弁護士の派遣を依頼する。
また,家族が捕まってしまったら,すぐに弁護士に相談する。
このような対応が必要とされています。

相談すべき弁護士を,常に頭の片隅に置いておいて下さい。



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