2014年6月16日月曜日

捜査段階の身柄拘束(逮捕・勾留)

日本の刑事手続において,身柄拘束は例外であり,被疑者として捜査の対象となる場合でも,在宅での手続となるのが原則です。

被疑者として扱われた経験のない多くの人は,必ず逮捕されるものだと考えてしまうかも知れませんが,逮捕や勾留は必要がなければ行うことは出来ないのです。

被疑者の段階で,身柄拘束が行われる場合と,それに対する被疑者の防御方法について,解説したいと思います。





(1)身柄事件と在宅事件の違い

逮捕・勾留されている被疑者と,在宅の被疑者では,次のような違いがあります。

① 取り調べのための出頭
・ 在宅の被疑者は,取り調べのための出頭を拒絶することができ,出頭した場合にも,いつでも退去することができる(刑訴法198条)。
・ 逮捕・勾留されている被疑者は,取り調べのための出頭を拒絶することが出来ない。
(但し,黙秘権の保障はあります。)

② 時間制限
・ 逮捕,勾留には時間制限があります。
身柄の拘束を続けるには,原則として逮捕から48時間以内に検察官への送致する必要があり(刑訴法203条),送致を受けた検察官は24時間以内に裁判官に対し被疑者の勾留を請求する必要があります(同205条)。
さらに,勾留の期限は,勾留請求の日から数えて10日以内に限られ,これは1度だけさらに10日間延長請求することができます(同208条)。
勾留の満期までに,公訴を提起しない場合には,被疑者を釈放しなければなりません(同条)。
・ 在宅の被疑者には逮捕,勾留のような身柄制限はありません。

※ ただし,身柄事件,在宅事件とも,公訴時効という時間制限はあります(同250条)。


(2)身柄拘束が許される場合

身柄拘束が許される場合は,法律に規定があります。

① 逮捕

逮捕には,3種類の方法があります。

ア 通常逮捕(刑訴法199条)

裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,検察官,検察事務官又は司法警察職員が行います。
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときに,裁判官は逮捕状を発することができます。
ただし,一定の軽微な罪については,被疑者が定まった住所を有しない場合又は正当な理由がなく取り調べのための出頭に応じない場合に限られます。

イ 緊急逮捕(刑訴法210条)

一定の重大事件についてのみ認められる手続です。
検察官,検察事務官又は司法警察職員は,急速を要し,裁判官の逮捕状を求めることができないときは,その理由を告げて被疑者を逮捕することができます。
身柄拘束後,直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をとることが必要で,逮捕状が発せられないときには,すぐに被疑者を釈放しなければなりません。

ウ 現行犯逮捕(刑訴法213条)

現行犯人とは,現に罪を行っている,または現に罪を行い終わったところの者を言います(同212条)。
現行犯人は,誰でも逮捕することが出来ます。
なお,現行犯人にあたらなくても,次のような場合には,現行犯人と同様の扱いになります。
・ 犯人として追呼されている
・ 贓物(盗んだ物等)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持している
・ 身体又は被服に犯罪の顕著な証拠がある
・ 誰何されて逃走しようとする

一般人が現行犯人を逮捕したときは,直ちに検察官または司法警察職員に引き渡さなければなりません。


② 勾留

裁判官による勾留状が発せられるのは,勾留の理由が認められるときです(刑訴法207条)。

勾留を行うには,必ずその前に逮捕がなければなりません(逮捕前置)。

勾留の理由は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,次のいずれかに当てはまるときに,認められます(同60条)。
・ 定まつた住居を有しないとき。
・ 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
・ 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。


(3)身体拘束に対する防御方法

逮捕手続の違法を直接争う手段はありません。
早期の身柄解放を得るには,検察官へ勾留請求を思いとどまらせる裁判官に対して勾留決定を出さないように働き掛ける,あるいは勾留されてしまった場合に,勾留段階での防御手続を行う(後述)ことになります。
勾留は,逮捕前置主義といって,かならず逮捕が先行することが要件となっていますので,先行する逮捕が違法であると評価される場合には,勾留自体が違法とも言えます。



勾留手続に対する防御方法

① 勾留理由開示(刑訴法82条)

被疑者,その弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系親族,兄弟姉妹その他利害関係人は,裁判官に対し,勾留の理由の開示を請求することが出来ます。
勾留理由開示は,当該被疑者及びその弁護人が出頭した公開の法廷で,行われる手続です。
実質的な勾留理由が開示され,勾留という処分について納得できることは少ないのが実情ですが,接見禁止により近親者との面会も制限されている被疑者にとっては,家族に接することのできるわずかな機会のひとつともなります。

② 準抗告(刑訴法429条)

勾留の裁判自体が違法であるとして,争う手段です。
前述の,勾留の理由について,被疑者には存在しない,と主張して申し立てることになります。
勾留の決定を行った裁判官とは別の裁判体により,判断されます。

③ 勾留取消請求(刑訴法87条)

勾留取消請求とは,勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときに認められる手続です。
勾留の開始時には,一応勾留の理由があったといえるが,その後の事情によりもはや勾留を続ける必要がないにも関わらず,検察官が被疑者の身柄拘束を続けている,というような場合に,請求することになります。

被疑者本人,その弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系親族または兄弟姉妹が申立てすることができます。

実際には,勾留取消請求が認められることは,多くありません。

④ 勾留の執行停止(刑訴法95条)

これは,請求により認められる手続ではありませんので,あくまでも裁判所の職権発動を促す,という形になります。

被疑者自身の病気,負傷,出産等や,近親者の危篤,葬儀への出席などのため,一時的に勾留を停止してその身柄拘束を解くという制度です。
ただし,勾留の執行停止は職権判断事項であるため,勾留の執行停止を認めなかった裁判官に対し,不服申立の手段は用意されていません。




被疑者段階の身柄拘束に対しては,以上のような防御方法がありますが,弁護人としての活動の中で最も多いのは,勾留の裁判に対する準抗告ということになるでしょう。

なお,勾留に対する準抗告に際し,犯罪の嫌疑がないことは,理由にはならないとされています(刑訴法420条)。
しかし,本当にやっていないのであれば,準抗告申立書の中では主張しておくべきでしょう。
そうすれば,職権での勾留取消のきっかけになる可能性はあります。

従来,人質司法といって,検察官の勾留請求に,ほとんど検討も加えずに勾留決定を出してしまう裁判官が多かったと言われています。
最近は,その反省から,勾留請求が却下される事案も増えてきているようです。
しかし,それでも不当な勾留がされてしまうケースは多く,その場合はきちんと争うべきでしょう。




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